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マネーフォワードが取り組む「自分たちらしい」人的資本の開示|#『ISO 30414』を単なる数値埋めにしない自分たちらしい「人的資本の情報開示」セミナーレポートvol.2

2022年8月9日(火)夜に「WeWork 渋谷スクランブルスクエア」で、株式会社Enbirth×XTalent株式会社 が行ったセミナーの様子をご紹介するレポート第2弾。

今回はゲストスピーカーである、株式会社マネーフォワード経営企画部 IR責任者の忍岡 真理恵さんが取り組んだ、人的情報開示についてご紹介します。

自分たちらしい人的資本の開示を
どう実践したか語る忍岡さん

■本レポートのポイント
・マネーフォワードが取り組んだ人的資本の情報開示のポイント
・人的資本の情報開示が与えた影響
・統合報告書の作り方



マネーフォワードの
人的資本の情報開示について

わかりやすいインフォグラフィックで
情報を示す

忍岡さん:はじめまして。マネーフォワードの忍岡(おしおか)と申します。まだまだ弊社も人的資本の開示については始まったばかりですが、今の到達点や考えていることを一例としてご紹介できたらと思います。

私は経営企画部でIR責任者をしています。弊社は海外の投資家もたくさんいらっしゃるのですが、決算後はIRミーティングをやる一方で社内のESGやD&Iにも取り組んでいます。プライベートでは7歳男子の母です。もともとは経済産業省出身で、留学をしてからコンサルティングファームに勤めて、4年ほど前からマネーフォワードで働いています。

今日は人的資本の開示に関する私たちの事例をご紹介しようと思うのですが、大きな取組みといえば、2年前から「統合報告書」を出すようになったことです。

統合報告書をメインにしつつ、今年の4月からは「ESGデータ集」という形で数字データも出しています。また、四半期の決算説明資料も開示の良い機会ととらえて、人的資本に関連するトピックにも力を入れていることに触れています。コーポレートサイトにも「Talent Forward」として人的資本関連の施策をサステナビリティの1つの柱として紹介しています。

先ほど河合さんのお話にも事例があったように、入社前に「マネーフォワードは、どういう会社で、どういう人がいて、どういう働き方なのか」を知っていただくために、採用サイトにも人的資本のデータをインフォグラフィックで紹介しています。

加えて、会社の義務である有価証券報告書の作成や、コーポレートガバナンス報告書など、様々なことをしています。


人的情報開示が与える影響

 
忍岡さん:正直に言うと、「マネーフォワードは、良い人が多いよね」「カルチャーが良いよね」と言っていただくことが多く、最初は自分たちは「うまくできている」と勝手に思っていた部分がありました。ただ、投資家の方や内定者の方とお話をすると、会えば分かってもらえるけれども、そうじゃない人には全然伝わっていないし、具体的に聞かれると説明が難しいと感じることもありました。

そこで、今の到達点や私たちが考える強み、そして「なぜ取り組んでいるのか」という想いの部分を整理して出すことを、最初の目標としました。読み手として考えていたのは、投資対象として我々を見ている投資家の方と、働く場所として考えている働き手の方です。

働き手に目を向けると、既に働いているメンバーであっても、特に我々は色々なグループ会社にジョインしてもらって大きくなった会社ということもあって、グループ全体像がわかりにくいという指摘がありました。

他方で、投資家の方から見ると、例えば最近だと、「グローバルで見ても特にエンジニアの採用が難しいみたいだけど、実際にどうなの?採用はできているの?」とよく聞かれます。これに対して、「こういう風に対応していて、採用はこう工夫しているからこのくらいできていて、退職率は〇%で安定しています」といったことを、実際の数値をあげながら説明し、ご理解いただいています。

特に最近は、市場全体で成長企業の株価が下がっていて、コストに対する見方が厳しくなっている部分があります。そうなった時に単に投資をすれば良いのではなく、「きちんと投資効果が出ているのか」ということが重要です。開示をしているとこういった説明をしやすくなると感じます。

また、採用候補者の方にとっては、直前の河合さんのご講演でもミスマッチの例として出ていたような、「自分が入社したら違和感なく働くことができるのか」ということを気にする方が増えてきたので、多様性の開示がとても大切だなと感じています。

例えば、少し前に社内規程内でいう「家族」の定義について、事実婚や同性婚、養子にも広げることをしまして、パートナーシップを結ばれたカップルが会社からお祝い金を受け取れるようになりました。こちらをWEBサイトや決算説明資料に載せていて、これが入社のきっかけになったと伺ったこともありました。そういう意味で、情報開示はシグナルとして役立っていると感じます。

マネーフォワード社内規程改定についての
\\\ noteはこちら ///

さらに、現時点の到達点をお伝えしつつも、より先に進むために、人的情報開示を進めていきます。有価証券報告書などでの開示要素はその推進力となります。例えば今後男女の賃金差の開示が求められることになりますが、こういうものは行政の動きが非常に大きなきっかけになると思います。


マネーフォワードが実践した
統合報告書の作り方

忍岡さん:実例として、マネーフォワードが統合報告書をどうやって作ってきたかご紹介します。

初めての統合報告書は「マネーフォワードが多彩な事業を手掛けているため理解しづらい」という声を受けて、制作を決めました。事業の説明はもちろん、人やカルチャーの良いところを強みとして伝えたいと考えました。そこで、メンバーの写真や、ユーザーの方のコメントなどを盛り込んでいきました。

とはいえ、初年度なのでとにかく無理をせず、今ある情報をまずかき集めて整えるだけで精一杯だった面もありました。なるべく社内のメンバーの写真をたくさん載せて、「ワクワクする感じ」「未来への期待感」そして「この人たちなら何かやってくれそう」と感じられるデザインにこだわりました。この辺りはnoteに記事がありますので、興味をお持ちの方は読んでくださると嬉しいです。

\ 初めての統合報告書作成の様子はこちら/

2年目は、かなり頑張ってブラッシュアップをしました。基本的なデザインは一緒なのですが、社内でも「サステナビリティ」や「ESG」についてよりしっかり取組んで開示していこうという大きな動きがあったので触れています。その中で人材戦略に軸を置き、人事本部長のコメントなどにページを割いています。また定量データも大幅に拡充し、ESGデータ集をPDFで切り離して見られるようにしています。これは投資家やESG評価機関の方にとってPDFの方が見つけやすいという話を聞いたためです。

ポイントとしては、「サステナビリティ」という言葉をそのままテーマに据えるのではなく、「私たちにとってサステナビリティとは?」という点から考えていったことです。その中で、私たちと関わることで、前向きな成長をしていくためのきっかけになりたいということだと定義しました。そこで、「前向き成長サイクル」というキーワードを中心にして、どういったインパクトを与えていきたいかを表現しています。統合報告書は一番自由度が高いので、こういった形で開示をしました。

結局「マネーフォワードらしい」って、何なのかなと。数字の羅列ではなく日々の企業活動でマネーフォワードらしいということを追求することで、マネーフォワードらしい開示に繋がるのではないかと思います。

弊社では、「Mission・Vision・Value・Culture」と呼んでいるのですが、事業を通じてどんな世界を目指していて、どういう行動指針やカルチャーを持っているのか、それと並列して経営戦略として何を大事にしているかが言語化・共有され、それを日々の活動で実現しているからこそ、開示するときにマネーフォワードらしさが出せるのだと考えています。

Missionは、「お金を前へ。人生をもっと前へ。」を掲げ、お金に関する課題をテクノロジーで解決することを目指しています。Visionは、すべての人の、「お金のプラットフォーム」になる。Valueは、「User Focus, Technology Driven, Fairness 」。Cultureは「Speed, Pride, Teamwork, Respect, Fun」。これは会社の活動を説明するときだけでなく日々の発信の言葉づかいでも気を付けていますし、資料の中身にもこれが表れていると思います。

どういう風に出ているかというと、Missionの「お金を前へ。人生をもっと前へ。」に関しては、一番わかりやすい言い方でいうと「前へ」という言葉を意識してたくさん使っています。また、Cultureに関しては、「Respect, Fun」がデザインで伝わる様に、メンバーの笑顔を多く盛り込みました。CEOに見せた時に、「もっとみんなの笑顔の写真を掲載して」と言われ、なるほど…と。そういう見せ方で変えていくのも有効だと思います。結果的に内外の方からメンバーのいい写真がたくさんあっていいねと言っていただいています。

そして、経営戦略です。マネーフォワードにとってメンバーに活躍いただけることがとても重要な課題です。エンジニアの英語化や次世代リーダーの育成に現在注力していることを、日本語を話さないメンバーの比率や、研修への参加人数、グローバル施策なども決算説明資料に記載して伝えています。こうした情報を余すことなく表現することで、「マネーフォワードらしさ」を表現できると思っています。

今後のマネーフォワードの
人的情報開示について


忍岡さん:今後も引き続き、情報開示を充実させていきたいと思っています。ISO30414だけではなく、伊藤レポートのストーリーラインを使いながら、ISOの要素もプラスして次の統合報告書を作っていく予定です。

また、男女間の賃金格差の開示も求められていることもあり、しっかり開示する必要があります。ですが、大事なのは開示ありきではなく社内で何をしているかです。賃金差はゼロではないですが、それをそのまま出しても本来の目的とは異なってしまうと思います。なぜ差があると分析しているのか、それを良しとしているのか、あるいは変えていきたいのか、変えるとしたらどんな風にしていくのかということを、きちんと話したり、誰もが意見を出せるような風通しの良い状況であることが大事だと思います。


質問:
人的情報開示に対して社内の反応は?


河合:ありがとうございます。私から1つ聞きたいのですが、今日はオフレコってことだったんですけれども、この人的資本の情報開示をどこまで開示するかは社内でも意見が割れると思うんですよね。推測ですが、上層部の方が難色を示しそうだと思うのですがそのあたりはどうですか?

忍岡さん:もちろん、「別にやらなくて良いなら、開示しなくても良いのでは?」と思う人もいたかもしれません。しかし、ちゃんとできていることはあるし、それをしっかり出すべきだという意見が強かったですし、弊社は社外取締役の皆様から活発なご意見をいただいたことも後押しになりました。また、普段は競合だけれども、同じようなドメインの企業の担当者さんからも色々とお話をお伺いでき、自分たちももっと開示を進めていった方がいいなというコンセンサスが強くなったと思います。

河合:もうひとつ質問です。社外の方はこの資料を見て応募してくださった方もいらっしゃるそうですが、社内の方の反応はどうでしたか?ポジティブなのか、それとも抵抗があるのかお聞かせください。

忍岡さん:統合報告書を出した時に、「すごく嬉しい!ワクワクしました」とか「数値を見ることで会社全体の流れを実感できました」という反応をいただいたこともあります。一方で、女性管理職が比較的少ない部分も正直に開示しています。それを見て「何とかしないと!」と思って、ボランティアで「エンジニアの女性採用頑張ります!」という方が出てきてくださったりして、良い刺激になっていると思います。



第2弾では、人的情報開示に実際に取り組んだ経験を基にした実践的なお話が多くありました。最終回となる第3弾では、注目を集める「ダイバーシティ」のポイントを、主催であるXtalent株式会社代表・上原 達也が登壇して論じました。

企業価値を高めるためには、どんなことに注意すれば良いのでしょうか。ダイバーシティの基礎知識だけではなく、企業・投資家間のギャップ、アプローチ方法などにも触れていますので、是非こちらもあわせて目を通してください。


【講師紹介】
ゲスト:株式会社マネーフォワード 経営企画部 IR責任者
一般社団法人Fintech協会 幹事 忍岡 真理恵
2009年、経済産業省入省、同年司法試験合格。民法(契約法)や特許法等の改正に従事。ペンシルベニア大学ウォートン校にてMBA修了したのち、マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社。2018年マネーフォワードにジョイン。「マネーフォワード おかねせんせい」(ユーザーに最適なお金の行動をアドバイスするサービス)をプロダクトオーナーとして立ち上げるなど事業開発に従事した後、社長室長を経て経営企画部。2021年9月よりIR責任者として国内外の機関投資家とのコミュニケーション等を担当するとともに、D&Iプロジェクト、ESGプロジェクト(主に人的資本担当)を推進。プライベートでは元気いっぱい小2男子の母。

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-STAFF-
企画・編集:XTalent株式会社
文:あおみゆうの

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