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人的資本の情報開示と『ISO 30414』|#『ISO 30414』を単なる数値埋めにしない自分たちらしい「人的資本の情報開示」セミナーレポートvol.1

2022年8月9日(火)夜に「WeWork 渋谷スクランブルスクエア」で、株式会社Enbirth×XTalent株式会社のセミナーが行われました。

登壇者は、河合 優香理(株式会社Enbirth 代表取締役CEO)、上原 達也(XTalent株式会社 代表取締役CEO)そしてゲストスピーカーに、株式会社マネーフォワード経営企画部 IR責任者の忍岡 真理恵さんをお迎えしました。

レポート第1弾は、河合が語った「人的資本の情報開示とISO 30414」についてご紹介します。

■本レポートのポイント
・人的資本の情報開示は、企業にとって「義務」ではなく「機会」
・人的資本開示は「投資家」と「働き手」を意識する
・人的資本の情報開示は単なる数値埋めでは意味がない
・人的資本の情報開示は大企業だけの取組みではない


日本における人的資本の情報開示


河合:皆さんこんにちは。株式会社Enbirthの河合 優香理です。お忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。本日は暑いので、是非ビールを飲みながら…。「乾杯」からスタートするセミナーを開催したいと思います。それでは、乾杯!

本日のテーマは「人的資本の情報開示」ですが、最近この言葉をよく聞くようになった…という方はどのぐらいいますか?(8割位の方の手が挙がる)ここ1年程で一気にホットワードになり、私も驚いています。しかし、実は私自身はひとりの働き手として、人的資本の情報開示の重要性を15年以上前から感じていたんです。

なぜかというと、会社選びをする際、企業の中にどのような人がいて、どのように働いているのか…という情報は一番気になるのに、なかなか外からは見えない、実際に入社してみないと分からない!ということはありませんか?…私もまさにそれを感じていたんです。「企業の中の“人”の情報をもっと透明性高く開示してほしい」と。

でも、そう感じていたのは「働き手」だけではなく、実は投資家も同じように感じていました。「企業にとって重要な資産である“ヒト・モノ・カネ”。そのうち、“ヒト”というのは、企業において最も重要な資産であるにもかかわらず、その情報が外に開示されていない。これでは投資判断しかねる」ということで、米国証券取引委員会(SEC)が上場企業に対して、人的資本の情報開示を義務付けたのは2020年のことです。

その流れを受けて、日本では経済産業省が伊藤レポートを発表、そして2021年に東証がコーポレートガバナンス・コードを改定し、プライム市場の企業に対して人的資本情報を開示要請(義務化)する動きが進んでいます。

さて、本日お集りの皆さまは、企業の経営者/IR部門の方/人事部門の方が多いと思いますが、この流れを見てどう感じていますでしょうか?

「大変な時代がやってきたな」
「また仕事が増えるな」
「とにかくデータ集めに苦労しそうだ…」

そういうお気持ち、とても良く分かります。しかし、これは大きな“機会”だと思うのです。

皆さんの会社にどれだけ優秀な人材がいて、どれだけ生き生きと働いていて、どんな素敵なカルチャーをお持ちなのか、対外的にアピールしていき、そして世界中の投資家や働き手を振り向かせる大きな“機会”だと思います。

さらに、人的資本の情報開示に対して向き合うことで、組織課題が明確になっていきます。そういった組織課題にも本気で取り組む絶好のチャンスだと思います。

本日は、人的資本の情報開示は“義務”ではなく“機会”として捉え、「どうやったら魅力的な開示ができるか」を皆さまと考える時間にできたらと思います。


人的資本の情報開示に関する
ガイドライン『ISO 30414』

 
さて、「人的資本の情報開示といっても、具体的にどうやって開示すれば良いの?」と悩んでいる企業は多いと思います。そこで注目が集まっているのが『ISO 30414』ガイドラインです。

従来の人的資本の情報開示系の項目では、長時間労働やハラスメント、児童労働など「企業として悪いことはしてないよ」という“守り”の項目が主軸だったのに対し、『ISO 30414』では「これだけ優秀な人が揃っていて、これだけ人材に投資をしている、だからこれだけ企業としてのパフォーマンスを上げられる」ということを示すための“攻め”の項目が主軸です。それに加えて、『ISO 30414』では、外部に開示すべき項目と、内部向けの項目が分かれています。

つまり、外向けのアピールだけでなく、内部の組織改善にも両輪で取り組みましょう、というメッセージが込められている点は、非常に重要なポイントだと思います。

人的資本の情報開示で覚える違和感
その1:表面的な数値埋めになりがち


本日お集りの皆さんは、人的資本の情報開示に関する情報収集をされていらっしゃると思いますが、情報収集をすればするほど2つの違和感を覚えると思います。まずひとつは、「表面的な数値埋めになりがち」という点です。

日本人の特性なのかもしれませんが、こういうチェックリスト的なガイドラインを渡されると、どうしても上から順番に律義に数値埋めをしようとしてしまいます。しかし、それでは全く意味がありません。

例えば、離職率一つ取ってみても、「離職率って、低ければ低いほどいいんだっけ…?」という疑問に突き当たると思います。仮に離職率10%だったとして、それを高いと見るか低いと見るか、それは経営戦略次第です。各項目を経営戦略に紐づけて語らなければ、何の意味もないのです。

また、日本組織の場合、離職率が低いからといって「良い組織の状態」とは限りません。私たちはHRサーベイ事業を行っていますが、数々の企業で「消極的定着(意欲が高いわけではないが、今すぐに辞める理由もなく、組織にぶら下がっている状態)」の存在も見られます。

『ISO 30414』の項目は単なる数値埋めではなく、こうした経営戦略や組織課題に向き合う際の“手段(ツールの一つ)”でしかないのです。また、組織課題の解決が土台であり、その上での情報開示であることも忘れてはなりません。

人的情報開示で覚える違和感
その2:“大企業のみ”の話にされがち


もうひとつの違和感としては、人的資本の情報開示が「ESG投資の文脈として、大企業のみの話にされがち」という点です。

ベンチャーやスタートアップ企業の経営者の方に「人的資本の情報開示に取り組まれていますか?」と聞くと、「うちはそんなESGなんて言ってる余裕ないですから」と言われてしまうことがよくあります。果たしてそうでしょうか?

もちろん、人的資本の情報開示はESG投資の“S(Social)”の部分として注目されています。そして、SDGs/ESGは企業として取り組むべき重要課題です。しかし、人的資本の情報開示をESGの文脈や大企業だけの取組みにしてしまうのは、あまりにもったいないと思うのです。

なぜなら、例えば、どんな規模の企業にも経営計画があります。それを実現するための事業計画があります。そして、事業計画を実現するのは誰でしょうか?それを実現できるのは、その企業の”人“に他なりません。では、その企業の中に、その事業計画を実現するスキルを持っている”人“はどれだけいるのか?もしいないなら、どうやって”育成“するのか?どうやって”採用“するのか?そして、その育成や採用にどれだけ投資をして、どれだけリターンがあるのか?ーーそれを開示することが人的資本の情報開示です。

これは大企業の話でも、ESGの話でもありません。経営戦略を説得力を持って語ろうと思ったら、必ず人材戦略を語る必要があるのです。



人的資本の情報開示は誰のためか


さて、ここで一度、初心に立ち返りたいと思います。人的資本の情報開示は誰に向けて、何のためにやるものでしょうか?オーディエンスは2人ーー投資家、そして働き手です。

日本企業はこれからますます激しい人材獲得競争にさらされます。そして働き手は、企業を冷静な目で見ています。優秀な人材を世界から獲得しようと思ったら、透明性高く人的資本の情報開示を行うことが必要不可欠ではないでしょうか。

そして最後に、なぜ私がここまで熱い想いで人的資本の情報開示に取り組んでいるか。私は会社員時代、モヤモヤしていました。そして、同じモヤモヤを抱えながら働いている会社員が大勢いることを、自社のHRサーベイを通じて知りました。

これは、働き手にとっても、企業にとっても、そして日本全体にとってももったいない!どうやったら日本の“働く”がもっと面白くなるのか…必死で考え、一つの結論に至りました。組織を「中から」変えることは難しい。やはり「外から」の働きかけがあることで、改善サイクルが早まるのではないか、と。

私たちはHRサーベイの会社です。各企業の中にどのような人がいて、どのような状態で働いているのか、定量データとして可視化することができます。それを透明性高く開示することで、良い意味で圧力がかかり、本気で改善しよう、という動きになる。

人的資本の情報開示とは、“開示”することが目的ではなく、開示することによって、“人を大切にする本当に良い企業に、世界中からヒトとカネが集まる仕組み”だと思っています。



イベントレポート第1弾では、人的資本の情報開示の概要をご紹介しました。第2弾では、実際に人的資本の情報開示に取り組んでいるマネーフォワードの忍岡さんから、リアルなご経験をお話いただきます。

これから人的資本の情報開示に取り組もうとされている方だけではなく、既に情報開示に取り組んでいる方にとっても参考になりますので、ぜひこちらもあわせてご一読ください。

【講師紹介】
主催:株式会社Enbirh 代表取締役CEO 河合 優香理
 
早稲田大学卒業後、日立製作所・日本マイクロソフトでのマーケティング経験を経て独立。マーケティング視点でのHR改革を掲げ、「ライフステージに関わらず、意欲的な人が思いっきり仕事を楽しめる社会を創る!」を目標にHRサーベイ事業、人的資本の情報開示関連事業に取り組み中。『ISO 30414』ガイドラインの翻訳、国内外の開示事例研究、数々のHR関連講座の登壇、日系大企業のHRレポート作成支援など『ISO 30414』関連の実績多数。

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-STAFF-
企画・編集:XTalent株式会社
文:あおみゆうの

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